やがて
やがて白い巨大な船はゆっくりと接岸した
甲板のスピーカーから静かに案内の声が響いた
さあ皆さんが待ちわびた船が到着しました 乗船資格はただ1つ それはこの船が見えることです
さあ焦らずにゆっくりとステップをお上がり下さい
行き先は次元上昇した新たな地球です
私はステップを上がりかけてふと思った
残してきた妻や子や職場の仲間たち
可愛がっている犬の嬉しそうな顔が浮かんだ
私は踵を返して人々の間を縫うようにしてタラップを降りた
そこには私と同じ思いの人達がいて船を見上げていた
みな静かに微笑んでいた……。
わからない
9月に倒れてそのまま退職したノガミさんの家に線香をあげに行った
亡くなったのは一週間前で 誰にも知らせずひそかに簡単な葬儀を済ませたようだ
家に着くと出迎えた歯の無い老婦人は我々を玄関脇の小部屋に通した
そこには小さな箪笥があってその上に簡素な天理教の祭壇があり白沙に包まれた骨壺と位牌が置かれていた
同行した私より6歳上の社長とだいたい同年齢の老婦人のはなしを横目に私はじっとその位牌を見つめていた
糖尿病であったこと この3ヶ月位は持病の痛風が悪化して独りでトイレにいくことも儘ならなかったこと 心臓や腎臓も悪く手のひら一杯の薬を服用していたこと 最後は痛風に一番悪いモツを買ってきて隠れるように調理して沢山食べたこと 老婦人はいずれの話も淀みなくまくしたてた
そして最後は自分の頭を指差してここにきとったから仕方ないと言って嗤った
帰り道社長が静かに呟いた
担当が休んで学校毎に量ってもらったとき学校の名前がわからないから書けないと言ってたよと呟いた
少しづつ認知が入っていたのかもしれないね 自分のコースは体が覚えていて間違う事はないけれど新しいコースはわからなかったのよ…
それでも私には最後のもつ煮だけは正気な頭で考えた行動のような気がした
夜中にトイレにいくたびに老婦人が起きてきて体を支えたと話していたことを思い出した やはり鍋一杯のもつ煮は彼なりの解決策だったのではあるまいか ふとそんな気がした
今朝方リアルな夢をみた
私は学生服に身
を包んだ高校生のようである 何かの手続きで三時限めに遅れそうになってしまった
階段を駆け上がり横の教室に駆け込むと自分の机がわからない
クラスメイトの顔もあまり見覚えがない
黒板を見ると端に2年4組と書いてある
ヤバいと走って教室を出て階段をかけあがり3年の教室に駆け込むとどうも雰囲気が違うようだし自分の机がわからない
右往左往していると
1人の男子学生が声をかけてきた
ヨシボウどうしたん?
それは幼馴染みの山野コウジで小学校 中学校と同じで 高校入試の時分かれて彼はワンランク上の八高に行ったのだ
ヨシボウ中央やなかったん ここは八高よほら制服が違うやろ
私は慌てて飛び出した
とうとう私もノガミさんのように少しイカれてきたのか…
そんなことを考えながら歩いていると小さな公園があって真新しい黄色い毛糸の帽子をかぶった老人が鳩にエサをやっている
帽子だけが目立ってタンポポの花を連想させる
その横にそっと腰掛け鳩の寄っては遠ざかり寄ってはパッとちる動きをみていた
やがてエサの尽きた老人が私の方を向き頭の黄色い帽子を指差して微かにニンマリ嗤った (一緒だね)とでもいう風に…
気がつくといつの間にか私も萎びた老人の姿で けれど頭には場違いな派手な黄色い帽子を被っていた
出掛けに何もいわずに妻が被せたものだった…
そこで目が覚めたのだ…