灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

夢9

 相変わらず品物は揃わなかった。

配送センターは折尾の元自動車教習所の跡地の一画にあった。

出入りするには、住宅地の曲がりくねった幅の狭い道を抜けてゆくのだ。

限られた人員で荷物を仕分け積み込んでゆくのだ。

ルート事にトラックやバンが並び昔からの社員である数人の監督の元でパートの主婦や老人が立ち働いている

最近は外国人も目立ってきた。

私は総配送責任者と言う肩書はあるが、言葉を変えれば、無理難題の引き受けがかりとでも言った所か…

この日も到着の遅れた当日使用の里芋1200kgを漸くの思いでバンに積み込んだ。

助手席には弁当と水筒を抱えた妻が乗りこんだ。

まだ間に合うと目配せしてエンジンをかけ車を出そうとした時、社長のスーが走り込んで来るのが見えた。

片手には例のごとく1枚のFAXが握られているが顔は青ざめている

板櫃中学校にタコの胃50kg中井小学校にイカの口を15kg大至急届けてくれという…

野菜屋であるうちの会社に水産品を注文を振るとは何事か…と腹がたったのは最初の二三ねんで例の騒動で同業他社がバタバタ倒産した今、残った会社は何でもこなすのが当たり前の様になっていた。

その甲斐もあって自動運転化で廃業した自動車教習所の跡地を安く借りられたりもした。

来年には裏を走るバイパスへ直接アクセス出来る道路を作ってくれると言う話もある。

エンジンをとめ事務所に駆け戻るとちょうど居合わせたサカピーがニヤリと笑う。

彼は取引先のバイヤー兼社長である。元々オシャレだったのだがいまでは高級ブランドのスーツを着こなしている。

タコの胃50kgの在り処を知っているという…

お互いに会社は大きくなってもやってることはちっとも変わらない

あの頃も野菜屋なのにパンやケーキ、寿司揚げやカマボコなど走り廻った記憶がある…

先代も老人ホームに汎ゆる物を見繕って納めていたのだ。