灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

オレオレ詐欺

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浅い眠りの中で鈍い音が響いている
ドーン ガガガ ドーン
わしは夢中で家の外に飛び出した
寝巻き姿で飛び出してきたわしを見つけて
ヘルメットに線の入った責任者が駆け寄ってきた
「いったい何を…この真夜中に」
あーすいませんな 役所から工事の指示が出てまして あなたは田中与一さん?」
「いかにもわしが田中与一じゃが…」
「役所からの依頼であなたの聴覚を塞ぐ工事をしています」
「聴覚?」
「ああそうですよ分かりやすく言えば 耳 ですよ」
「耳! そんな事勝手にしてもらっては困る 耳が聞こえなくなったら大好きなのど自慢も新婚さんいらっしゃいも聞かれんじゃないかい」
わしの猛抗議に責任者は苦笑いしながら言った
「わかりました それじゃ 少しだけ聞こえるように塞がないでおきますよ」


このけしからん話を婆さんにしても はあはあそうですかとただ笑っておるだけ…
どのくらいたったじゃろう二時間位かそれとも二週間か またしても夜中に工事の音が微かに聞こえる
ガガガ~ わしはまた外に飛び出した
「やあ 起こしてしまいましたね 今回はあなたの視覚を塞ぐ工事をしています」
「視覚?」
「目ですよ目 あなたの目を塞ぐように役所から指示が来ています すぐ終わりますからご心配なく」   
「じょ 冗談じゃない 目を塞ぐだと 役所の奴の考えそうなことだ そんな事は断じて許さん わしの目の黒いうちは…」
「わかりましたよ それじゃこうしましょう 一度に全部塞ぐのは何かと不便でしょうから半分だけ塞いどきましよう 残りはそのうちということで…」
「半分!?」
「そう 役所からは最低でも書類の文字の見えない程度でという指示です」


それが国の規則なら仕方がない 全くもって後期高齢者とは不便なものだ けしからん!
わしがぶつぶつ独り言を言っても やい!ばあさん おまえさんは笑うばかりでいい身分ですな 全く!

耳も遠くなり 目も薄くなり年金を貰いに行くのも一苦労 えーぃ腹が立つ!
「何をやっ取るんじゃ!」
もたもたしている役人をどなりつけてやったんじゃ
案の定 その夜奴らはやってきおった
ガガガガガガ ド~ン ド~ン
わしはふらふらしながら這い出していった
「なにを いったい今度はなにを塞ぐつもりじゃ わしの口か!オウ!昼の役所の事を根に持って…きさまら~の思いどうりにはさせんど~」
「ご明察 さすがですね 今日は御察しの通り あなたの口を塞ぐ工事に来ました でもいつもの通りに
少しだけ塞がないでおきますから 悲鳴ぐらいはあげられますよ ご心配なく」


「ア~ ウ~」こんな声しかあげれれない情けないわしになってしもうた
わしがこんな姿になっても婆さんは変わらず微笑んでくれる~婆さんはわしを愛しておるんじゃのう
「大丈夫ですか 田中さんお位牌に話しかけても亡くなった奥さんは戻りませんよ」
(くそ生意気なヘルパーの奴が何も分かっておらんで)怒鳴ろうと思うのだが口をついて出るのは悲しい事に 
「ア~」「ウ~」

わしらはこんな情けない身の上になってしもうたがのう婆さん ここだけの話じゃが わしらには金という強い味方があるんじゃ ほれこのカメの中に隠した通帳 えーと印鑑は 印鑑 印鑑と はてさてどこに置いたかな おう!そうじゃカードがあった 番号はほれ覚えてますぞ 忘れもしないわしらの結婚記念日じゃ****


るるるるる~るるるる~遠くで 電話の鳴る音が なんぼ婆さんに出れというてもでらんわい
仕方がないのう
「あっもしもし 田中与一さんのお宅ですか 私ですよ私工事の時にお目に掛った 実はですね あなたの家を不当に工事していたことがわかりました すぐ元に戻す工事に取りかかりたいと思っておるんですが さしあたり役所から幾らか弁償金が出ますので面倒ですが通帳と印鑑かカードを持って銀行の方へお越しください 係りの者が車で迎えにまいります」
ほれ見たことか!わしのような真面目なものを苦しめるような真似は きっと神様も心が咎めたんじゃろう 
ばあさんやちょっくら行ってくるで 帰りに寿司でも買ってくぞい…


家の前にタクシーが一台とまった
与一は支えられるようにして乗り込んだ
その手にはしっかりと通帳とカードが握られていた

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