灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

ちゃんとふくしゅうするのよ

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今日のお茶飲まないでね 明美からそうメールが来た
またなんかやらかしたんだ 怒った工場長の顔とその前に背を竦めて立っている明美を想像した
明美は入社三年目になる総務の女の子で仕事が出来ない事で有名だ
配膳室で泣いている姿があまりにもかわいそうだったから 大丈夫?と声をかけた 
おれは外回りの営業で彼女のミスがどんなに皆に迷惑をかけているのか知る由もないし 
気軽に声を掛けたのだ
でも孤立無援の彼女にはその一言が心に響いた模様で
それからはおれにだけは本物の笑顔を見せるようになった
彼女はよくミスをする その度に皆のやり玉に挙がる それでもめげずに働けるのは彼女なりのストレス解消法があるからだ 仕事が出来ない彼女はお茶くみを一手に引き受けている
それもやむなしという雰囲気が事務所全体にある 彼女はそれを逆手に取ったのだ
蟻 蛾 ミミズ 毛虫 イモリ …
それらをやかんで煎じてそのお湯で入れたお茶やコーヒーを出すのだ
入れ終えた後のやかんの中身は手早く処理するからまだ誰も気づかない
ゴキブリや蝉などは風味が増すようで皆今朝のコーヒーは美味いと誉める
一度スズメバチを入れたときだけは味がおかしいと皆が騒ぎ出し近所の工事の影響で水が濁っていたと言い訳をした

最初それを聞いた時はまじ やばいと思った



今回の円高不況でまっさきに彼女はリストラされる事になった 不当解雇だと彼女はボクに泣きながら抗議した けれども彼女のこれまでの会社に与えた不利益を考えると仕方がない それは彼女も分かっているらしく解雇には応じる模様である 
最近彼女は昆虫図鑑やキノコ図鑑を持ち歩いて何かしきりに考えている
ねぇ大ムカデってどこで捕れるの…


私の最後のお茶を飲んでください そう言って笑顔で工場長や課長や主任の席に湯呑を配る様子が目に浮かぶ

最近コヒーの味が落ちたね うんお茶もそうだよ 
あの味は明美さんにしか出せなかったね
どうしてるかな~彼女 
てな会話が聞けるかも…


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