灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

ジャストモメント

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そろそろだよと
ベランダの向こうから
声がする
わかっているよ
ボクは声に出さずに
答える

クワクワクワ
見上げればアヒルが群れをなして
何処かへ渡ってゆく

通りをあるいていても
準備はいいかな
植え込みの中から
声がする
ボクは黙って頷く

目を閉じて耳を塞げば
静かに降り積もる
時間の微かな気配さえ
感じる

ひこひこひこ
手を引かれ童女の靴が鳴き続ける

この世で
あらゆる事に気兼ねしながら
あくせく暮らした毎日
不甲斐なさと悔しさを混ぜ合わせると
少しずついとおしさに変わってゆく

カタカタカタ信心深い老婆は
入れ歯を木魚の代わりに鳴らす

ほかの生き方は
多分出来なかった
こんな風な生き方しか
出来なかった

だから
寂しくとも
惨めでも
これでいいのさ

傍らをゆく
野良犬にわけも無く名を尋ね
あつく抱きしめ
握手する

若い頃は
その名前さえ忘れていた
奴の姿がほら通りの向こうに見える

もうすぐ
追いつかれるだろう

佇んだ大きな猫を撫でると見せかけて
やはり撫でる
そんな不埒な生き方だった

そこからが長いぞ
ベンチに腰掛けた老人が
耳毛を抜きながら
怒ったように呟く

ギラギラとした
太陽は今のボクには
荷が重い
番号を確かめずに捨てた
ロト7のように
消化できない思いが
尻の辺りに
僅かに漂う

まるで
スカした屁のように…。