給付金

なに！
この忙しい時に陰陽師がきただと
それが東司様の紹介状を持参しております

うむ　秘書官に同席するように伝えろ

老人は美人の巫女二人とともに坐していた
おもむろに巫女の一人が話し始めた
我国には古来よりハレ(晴れ）とケ(汚れ）の思想がありますが御存じですか
ええ…まあ
日常生活はケガレのケにあたり　それに反してお祭りや結婚式などの晴れやかな場はハレにあたります
首相は忙しいんだ　要点だけを言ってくれないかね
まあまあ　聞こうじゃないか
金は汚れたものいわばケに属します
それを御上がただばらまくのではただ汚れをばらまくだけ
人々の恨みを買いますぞ
それは給付金の事かな
はあ…
老人は頭を下げにたりと笑った

ではどうすれば？
古来より為政者が金銭を施す時には人々の恨みを買わぬように
神や天のなを借りたものです　そうすれば人々の恨みも天や神が吸収してくれますから
そこでです
老人はヒョイト手をあげ巫女の言葉をさえぎり　出されたお茶を旨そうに飲んだ
この間の取り方といい　堂々とした態度といい尋常の者ではない事はうかがい知れた
首相も補佐官もその話に引き込まれていった

そこでです　
もう一人の年嵩の巫女が低いが澄んだ声で話し始めた
今回の給付金　総額二兆円ですが
まず全国民に一万円ずつ配りなさい　それは真面目な人々の心を満たすためです
残りの七千億　これを穢れを払う　みそぎの為に使います
ほう　神事でもやるかね　オリンピックのような
今回の場合は時間がない
老人がポツリとつぶやいた
ちがいます　もっと強力な毒を使います
毒は毒でしか制しきれません
で何を!?

富くじです
富くじ！
そうですただし半端なものではいけない
思いっきりハレを使うために国民の目の色を変える必要があります
で　どうするんだ
１等　一人を１０００億　
一千億？　まさか　そんな
あたらしい神を庶民の中から作るのです　そのぐらいの威力は神に与えないと人々はひれ伏しませんよ
それに今のあなたに対する批判も生活に対する憤りもすべてこの神が引き受けて下さいます
この神の生活は当選した瞬間から国民いや世界中の注目の的となるでしょう
副神に当たる二等２００億五人　小神三等十億１００人　幸運人四等一億１００人　
残りは…
残りは？

末等お年玉として買った人全員に等分します
経費は？主催者の取り分はどうなるんだ
くじは給付金配布の時に一枚百円で売ります　ただし一人十枚まで
形態は年初にある初夢宝くじをバージョンアップしてそのまま使います
効果を高めるため　年末ジャンボは中止　取り分はなしですが　但し必要経費は十二分に出ます
年初に行う　抽選会には　首相あなた以下全閣僚も出席して一大イベントに盛り上げます
但しスーツは駄目ですよ日本国と染め抜いた揃いのはっぴを作るんです
芸能界　スポーツ界　経済界　角界　出来れば皇族のどなたかにも…
ホホウ～！
これはお祭りですから　黒雲を振り払う国を挙げてのお祭りですから

なるほど　できるだけ盛大にやれというんですな
そうです　キリスト者のクリスマスのようにイスラム者のラマダンのように
盛大に正月を祝うのです
それが今のあなたが言う所の百年に一度のミゾウユウの状況を打破しこの国を盛運に向かわせる
ただ一つの秘策ですぞ～～。
首相ご決断を！
そう言って三人は頭を下げた

馬鹿な～～富くじだと～ふむ
誰もいなくなった執務室で麻生首相は顎に手をあて
歪んだ口元をさらに歪めて苦笑いした

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