灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

出来事

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昨日 会社から歩いて帰る途中
悲しいできごとにあった
踏切の向こうに下り電車が止まっていて
遮断機は降りたまま警報もなっていた
あたりはもう薄暗く
橋の上で二人の女の人が気色ばんだ口調で話していた
いや~どうするんね若い女の子やろ
ほらあそこ標識の向こうに倒れとらせんね
髪が長いこっちを向いとるがね
まあかわいそうに!知っとる娘やなけりゃええがね

やがて止まった電車の運転席から
制服を着た男がのそのそと降りてきた
男は横たわった娘に走りよるでもなく
顔を背けるようにして傍らを通り過ぎると
踏切の事故を知らせる警報機をいじっていた
やがて制服の男は踏切の向こうで待っている車に何か言った
車はUターンして別の道へ次々と消えてゆく
その運転手と思われる男はこちらに来ると
すいません事故で踏切は閉鎖すると伝えてもらえませんか
そういうとまた横たわった娘に顔を背けて電車の方へ歩いていった

いち台の軽パトが赤色灯を点けて駆けつけてきた
降りてきた若い警官二人も何故か倒れた娘には近寄らなかった
トランシーバーで本所と連絡をとる声が闇に響く
ひとしきり連絡が終わるとボクたちに話しかけてきた
誰が目撃した方いらっしゃいますか?
皆直後に行き合わせた者ばかりで目撃者はいなかった

やがて騒ぎを聞きつけて何人もの住人が家から出てきた
何事ですか?人身事故です、娘さんがほらあすこに…
中には血相を変えて娘の顔を確認しに行った中年の男性もいた
救急車はいつくるんですか?
救急車はきません 即死ですから
消防がきます
ボクは犬と一緒にそっとその場を離れた
即死という若い警官の言葉が
ボクの心に無造作に投げ入れた毒のように
絡みついて息苦しかった

見知らぬ人の死がそこにはあった
それは呆気ないほど唐突で
しかも途方もなくリアルだった

赤い警告灯と警報音
止まった電車と中で新聞を読む
乗客のすました横顔
レールに横たわる娘の死体

遠くに見える赤色灯の群を見ながら
追われるように駅の階段を駆け上がった
人身事故により上下線不通
改札口の電光板にはマジックの走り書きが
張り付けられていた

どこの誰かは知らないが
一つの命がここで消えた
そしてまたダラダラと日常が続いてゆく
おかまいなしに