灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

2050


列島生まれの列島育ち
そういう連中の持つガチガチの考えを列島観という
ここ内蒙古にあるコロニー134別名敷島でも
年老いた連中が 列島の事をよく話して聞かせた

曰く
四季それぞれに花が咲き
海の幸 山の幸に恵まれた場所
山紫水明の理想郷
とうとう我々はその場所を捨てた
でも遠く離れてもふるさとの美しさは語り継いで行こう

足掛け十年にわたる移民も完了し
今や世界中の核廃棄物の捨て場と化した海に浮かぶ列島
そのことを悔やみ決して笑わない老人達の縺れた感情を
大陸育ちの子や孫は(劣等感)と揶揄することもあった

今年になってからもせめて死ぬときは内地でと
粗末な漁船をチャーターして海峡を渡る老人達は引きも切らなかった
最初のうちは取り締まっていた政府も
最近では二度と帰って来ないという念書さえ書けば
渡航に目を瞑るようになっていた

高濃度の放射線の中で富士や桜に囲まれ内地で静かに息絶えること
それは列島生まれの老人たちにとって最高の幸せだった
西方浄土に模して東海穢土等と呼んだりした

さて
そのような訳でしての 
わしもようやく明日内地へ帰ることになりましたんじゃ 中略
それでは皆さんお元気で
そういってぺこりと頭を垂れた

ボクはその時生まれて初めて
雄介爺さんが笑うのを見た
それはいつか歴史の教科書で見た
紅白歌合戦を見て笑う人々の笑顔にそっくりだった