灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

パンフレット

 
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小さな神社の石段を登ってゆくと一人のおじさんが石段に腰掛けていた
ステテコに腹巻姿だったがすぐに神様だとわかった
こんにちは神様!
やあ照れちゃうな バレバレだったかな
神様は短く刈った胡麻塩頭を掻きながら笑った
ここに出てきたのは他でもない あんたに会うためだよ
そろそろ出てくるんじゃないかと思ってました
そう言ったのには訳がある
この神社に通い始めてもうかれこれ十年近くなる
平均すると月に一回は参拝した
 
こんなうらぶれたお社に毎月欠かさず参拝するとはなかなか
見上げたもんじゃ…なにか願い事を叶えてあげようかの
 
そ・それじゃ…
・・・何か言いかけた私を神様は軽く手で制し
この中から選ぶがよかろう
そう言って一冊の薄いパンフレットを差し出した
表紙には[願い事一覧]と書かれてある
次に参拝するときにおさい銭と一緒に
叶えてほしい願い事に◎を付けてさい銭箱に入れときなさい
そういうと神様はにっこり笑ってヨタヨタと神社の裏手に消えた
 
私ははやる心を抑えて石段を駆け下りた
足がもつれて転びそうになりながらもなんとか自分の車に辿り着くと
運転席でパンフレットを開いてみた
 
最初のページには 笑顔 とだけ書いてある …え!?
 
次のページには 愛 とだけ書いてある  …グフ!?
 
最後のページには 起きる とだけ書いてある …?
 
なんじゃこりゃ~私は騙されたと思った
こんなパンフレット破り捨てようかとも思った
その時誰かがガラスをコツコツとノックした
見ると腰の曲がった老婆が不格好な姿でこちらを見上げにっこり笑った
老婆に手招きされるままに車を降りた
 
駐車場の端の河べりのベンチに並んで腰かけた
わてはなまあいうてみればガイドブックのようなものですねん
聞けば老婆はやはり50年前に神様と出会い
さんざん悩んだ挙句に 笑顔を選んだと言った
老婆の顔には深い笑い皺が刻まれている
 
次に現れたのは 愛を選んだ老人で
沢山の孫を連れて散歩していた
 
三番目はほれ!あそこに見えなさるじゃろう
老婆が指さす方を見ると一人の年老いた.ホームレスが
段ボールを片手に今夜の寝床を探していた
何故だろう
遠目にもその姿は凛として見えたのだ……。