灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

それから いろんな事があつて
男は死んだ

いろんな事を話すには
それと同じ時間が要るだろう

人々は彼を忘れるために
黒い服を着て集まった

焼香の煙と献花の甘い匂いの向こうで
男は冷たい躯となった棺に横たわっている

その上には彼の笑い顔が
飾られている

良く生きましたな
全く良く生きましたな

そして
今日を境に
彼は剥がされたカレンダーの様に
忘れられてゆく

打ち返す波のように
繰り返される
生と死のしじま

それから皆は
急かされるように
席を立ち

それぞれの
いろんな事を
片付けに
四方に散ってゆく