灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

寓話

物語は消滅しえげつない空気が蔓延した
息苦しくなってきたので
人々はウサギの目を持った兎を探した
本物の兎を捧げなれば祭壇が整わないのだ
そして物語もはじまらない


それにしても
どこもかしこも奇怪な輩ばかりだった
狐の目を持った兎や
狼の目を持った山羊や
中途半端なものが跋扈した


皆尻に毒針を仕込んで
神経質に獲物を探した
いつもどこかで血が流れた


今となっては心の底から笑う事が
何物にも代え難い贅沢だったと
自分の毒に侵された頭で
うっすらと考えてみたりした


かってのキリストがそうであったように
かっての釈迦がそうしたように
途方もない馬鹿が
破顔の笑顔で
野放図なやさしさを
躊躇いもなく施しながら
どこかからやってくるのを
心の襞の奥では渇望していた


けれども無防備な人間を見ると
おぞましいものでも見るように
毛穴を締めて顔をそむけるのだ

ここは救いようのない世界
腐れた風が頬に纏いつく


だから君はこの事は
もう忘れてくれ
悪い冗談だと
破り捨ててくれ