灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

Joy

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ボクはjoyにくどくどと注意を繰り返す
「絶対にお肉を生のまま食べちゃだめだよ この前みたいなのは御免だからね」
joyはボクを見上げて何でも聞くの姿勢で座ってる でも口の周りはもうよだれで一杯
「それからイカシタ女の人を見つけても絶対お尻の匂いを嗅いじゃ駄目だよ
「ワオウ!」

ボク達がつまり ぼく(人間)と joy(犬) が入れ替われるようになったのは
あの夏の日の出来事以来だ 
突然降り出した夕立の中バリバリドカーン!突然の閃光と轟音 二人の間に落雷したんだ

ボク等は最初は戸惑いながらも徐々に入れ替わる事を大胆に楽しむようになってきた
ボクは犬になって初めて 風をきって走る事の爽快感を味わった
四本の脚は快適だった 人間がいかに無様な鈍い生き物であるか初めてわかった
その日もボクは河原を目指した
街の中にいる時はなるべく大人しく誰が見ても安全な犬と思わせなければならない
でないと誰かが通報してボクはすぐに捕獲されてしまうのだ

やっと着いた K川の河原だ
ボクは大きく息を吸って 一目散に駆け始めた 
四本の脚の肉球と爪は大地を捉えてぐんぐん加速する ビューン 障害物は飛び越えて
水際で弧を描き尻尾で微妙なバランスを取りながら反転する

5分も走ると体温が上昇し 大きな口から舌を出して激しく酸素を供給する
伏せの姿勢だ 冷たい土の感触が気持ちいい!

いまごろjoyのやつ 食べ放題の店で たらふく肉を平らげてるに違いない
joyの嬉しそうな表情が目に浮かぶといっても ぼくの顔なんだけどね

やばい大きな雄犬の匂いだ
風上からこちらへ向かってくる
まだ風下のボクには気づいてないだろう
それにしてもすごいスピード えっ 何かに追われてる!?
大きな黒いラブラドールで市の捕獲員が5人位で追っている
一番後ろのゲージの乗った軽トラックが土手の上に止まった
やばい~

もうすぐ約束の時間だ
焼き肉店の前に早く行かなくっちゃ
joyの奴が満腹の腹を抱えて店を出てくる

ボクは茂みを駆けだした
ボクを見つけて組みしやすしとでも思ったのか
捕獲網を持った若手の二人が後を追ってきた
ボクは畑を抜け住宅街を抜けてjoyの待つ
カルビ大王を目指した
追っ手は着実に後を追ってくる
彼等は犬が全速ではそれほど長く駆けれない事を知っている

通りの向こうにカルビ大王の派手な看板が見えたとき
ボクの体はヒートアップしてしまった
ボクは冷たいアスファルトを探して腹を押し付け
大きく開けた口からダラリと舌を垂らし荒い呼吸を繰り返した

通りの向こうに人間の姿をしたjoyが見えた
腹が満丸に膨れてる
(joyのやつまたあんなに食べやがって…)
そう思ったとき ボクに何かが覆いかぶさってきた
捕まえたど! おーい一匹捕獲成功!
寅さんそっくりの捕獲員が叫んだ

こんな所で捕まったら 人間のjoyにはどうする事もできない
第一まともに話す事さえ覚束ない
クオ~~~~ン ぼくは大きく遠吠える
それに気づいたjoyがこわい顔をしてまっすぐ車道を横切ってくる

ギュルギュルキーッ ドーン!
はね飛ばされたjoyの体が宙に舞うのが捕獲網越しに見えた
あっ! 体が~ボクの体が~
車の流れが止まり 人だかりがしてきた
軽トラの荷台に載せられたボクの犬の耳は微かな救急車のサイレンを捉えた
路上に血を流して倒れたjoyの体が見える万事休す
そのはだけたTシャツの腹が満丸に盛り上がっているのが分かった

joyのやつ…大きな悲しみがボク襲った

あんなになるまで喰わなくても
ふいにニヒルな笑いがこみあげてきた
クォオ~ン

その時ボクを捕まえた捕獲員が
細い眼をさらに細めてボクにウインクした

joyのやつ!…相変わらず素早いな!

オマエ どうせならイケメンにすればいいのに…
ボク等は目を見合せて笑った 


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