灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

光景

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ボクがまだ自分の巣を持たなかった頃
ヘットライトの向こうに愛はあった
 
アルバイトでやっと手に入れたおんぼろ車が仮の巣だった
若くしなやかな躯と膨大な時間だけが手駒だった
 
自分の正体さえ判らず
ただ闇雲に吠えたり威嚇したりした
 
同じような雌の尻の臭いを嗅ぐために
一晩中街中を徘徊した
 
何にでもなれそうな気がしたし
何にも成れない気もした
 
目の前に見えない巨大な壁があって
その麓をうろつきまわっているような気がした
 
体中の血が騒いでわけもなく何かを叩きのめしたい気がした
また遠くの花園で佇む幸せな光景が見えたりもした
そしてそれはまだ遠い先のことだった
 
うんざりするような長い坂を越えて
数えきれないため息をつき
涙にぬれながらボクは少しずつ変わっていった
 
此処からはそんな光景が見える
振り向けば
雲の切れ間にまた道は続いてゆく