灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

見えない魚


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男は水の中に立って
見えない魚を待っている

皆は目に見える魚を追って
遠くの海へ行ってしまった

男が待っているのは
自分にしか見えない魚

その魚の存在を人は信じない
手っ取り早く金になるのは誰の目にも見える魚

それでも男は幻の網をうち続ける
網はその時々の心の組成で出来ていて
かかる獲物も違うしそれらは彼以外には見えない

男はチューニングのダイヤルを僅かに動かすように
心の境地と自らの立ち位置を変える

何年もの間男は見えない網をうち続ける
傍目にはそれは馬鹿げた徒労に思える

皆は見える魚を追うことに忙しい
それは確かな形で富に変わる

男は黙々と見えない網をうち続ける
彼にしか見えない魚を追って彼はますます澄んでゆく

一度魚を手に入れたなら
忽ち彼は光を帯びて水の中を泳ぎ始める

彼は透明な光を帯びて
その姿が見える者を求めて遥かなる海洋を流離う

そうやって不思議な光は受け継がれてゆく
だからあなたも網をうち続けるがいい
見えない魚のかかる時まで
幾度でも…