その男が歩いてきた道のりは
彼にしか分からない
ついた溜息の数も
流した涙の味も
彼にしか分からない
時折みせた笑顔を
誰もが覚えている
かけてくれた優しい言葉は
その人の心に息づいている
抱きしめられた感触を
忘れる事もない
男がこの世を去ったあとも
微かな残り香が
所縁の場所に漂っている
思い出を語るのは早すぎる
涙を流すには遅すぎる
彼の物語は終わったばかり
まだ生きている人の物語は
続いてゆくから
捉え用のない忙しさは
続いてゆく
せめて笑顔は
忘れまい