灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

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 十年くらい前 あの住宅が建っているところにU氏の会社はあったのだ。
今はその会社も潰れてしまって、誰も覚えていないだろう。

あの頃U氏は一人の女性と付き合っていた。
その女性とも会社が潰れたどたばたで別れてしまった。
今は別の会社で働いているU氏だが近くに用事があって、十年ぶりにふと此処へ寄ってみたのだ。
当然のことだが、あの頃二人で植えたコスモスやポーチュランカはもうどこにも見当たらない。

この公園を花だらけにしよう
そういって仕事の合間に荒れ地を耕してせっせと種を蒔いた事を思い出す。
あの時親会社のとばっちりを受けて会社が潰れなければ、二人は結婚していたかもしれない。
それからは新しい仕事に慣れるのに精いっぱいで県外へ出た彼女とは連絡を取れずにいた。

縁がなかったんだろう…

帰ろうとしたU氏は足元の草むらに小さな緑の芽が出ているのを見つけた。
これはたしか…
彼女が植えた水仙だ。

ちっぽけで健気なその芽を見ているうちに
そうだ彼女に連絡をとってみよう
U氏のこころにふとそんな言葉がうかんだ。