灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

木から降りた猿


 R氏は木の上に暮らす猿だった。
彼の母も父も祖父も祖母も…もう気の遠くなる様な昔から、そんな生活を続けていた。
ところが最近雨がめっきり少なくなって、森の木が年を追うごとに少なくなっていった。
困ったことになったと漠然と思ってはいたのだが、群れの仲間は誰ひとりその事を口に出せないでいた。そのうちに木々はいよいよ疎らとなり毎日の食べ物にも事欠く様になった。
子猿や老猿は次々と死んでいった。
彼は森の向こうに広がる果てしないサバンナを見つめた。
もはや今までどうりの暮らし方では生活が成り立たない事は誰の目にも明らかだった。
豊な食べ物はもう木の上には存在しなかった。
生き残る為には先祖の代々住み続けた此処を後にしなければならない。
これまでにも向う見ずな若い猿達は知らない間に此処を去って行った。
サバンナには天敵のライオンや豹やハイエナがいる。
しかし飢えを凌いで生き延びるためにはそれ以外には方法はなかった。
サバンナの向こうには豊かな森があることを願って
キャホホ~
ある日彼は大きな雄叫びをあげると木を降りそのままサバンナの中を進み始めた。
最初は彼の行動を見守って居た他の猿たちも、真っ直ぐに進む彼の姿を見ておっかなびっくりではあるが遅れまいとゾロゾロ後をついてきた。
母猿は子猿を抱え、年老いた猿は足を引き摺りながら キャキャと騒々しい叫び声をあげてサバンナの中を進んでいった。

それからの苦労は枚挙に暇がないだろう。

今ここに私や」あなたがいるのはこうした祖先たちの勇敢な行為の結果なのだ。
そのことを無駄にするまい。

問題の本質はあの頃と何も変わらない
我々は生き延びるためにいつでも木を降りる覚悟が必要なのだ。