灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

今日からボクは 3

世の中には不思議なことが沢山ある
たとえばボクの上司である黒さんの事だ
ひと月間接してみて彼はボクがこれまであった誰よりもインテリジェンスに富んでいると思うようになった 黒さんはどちらかといえば無口なほうである 話す必要がない時は黙っている
けれどボクが何か尋ねるととてもユニークなオリジナリティに富んだ受け答えをするのだ しかも説教じみた調子は全くなくて話は多少の誇張も感じられるが無性に面白いのだ その話しぶりひとつとっても知性の高さがプンプン匂ってくるのだ
たとえばボクが重いトラックのハンドルに閉口して愚痴る
「ちぇっ!なんて重いんだこのハンドルパワステも付いてないなんて時代遅れもいいとこですね」
「お前さんはそう言うがね 据え切りでもしない限りそう思くはないよ このパワステなしのハンドルのおかげで私は腕の筋力を維持できてるんだよ もともとパワステなんてものは女性や老人の為に開発されたものだからね ものを乗りこなす行為は男にとっては楽でさえあればいいという感覚とは別次元の手ごたえの問題だからね 私はこのトラックに野菜を満載した時の戦車のような手ごたえが大すきなんだ」
また或る時はオバマ大統領のニーュスからボクが「オバマさんよくやってますよね?」と呟いた事がある
「おまえさん アメリカの現状はそうそう甘くはないよ」
「といいますと?」
「巨額の赤字国債 しかもそれを持ってるのは中国と日本 引くに引けないイラクとアフガン 国内の企業はガタガタ アメリカはユダヤの植民地のようなものだからイスラエルの防衛という事も常に念頭に考えなきゃならないんだ それに北朝鮮の事もある 私がオバマなら相手はどこでもいい戦争を仕掛けるね 事実アメリカはそうやって幾度も危機を乗り越えてきたんだ」「戦争ですか?」「いつだったかな確か自国製品を買わせるためにヨーロッパの国と戦争した事もあったしな とにかくアメリカはそう言う国だ いかにオバマでも軍需複合体の圧力に平然としてはいられないだろう 私はそこを心配しているんだ」
黒さんはその名の如く色浅黒く 筋肉質で服装はラフでいかにも肉体労働おやじといった風体である
ただ一か所それらしい気配をあげるとすれば休み時間には銀縁の眼鏡をかけて読書をしている かといって真面目一辺倒というわけでもなく 競馬もすればボートもする 50を少し越えているのに独身である それなのに時々明らかに女の人が作ったに違いないお弁当を何食わぬ顔で食べていたりする