灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

no3 神

ある日黒い鞄を下げた神が訪ねてきた。
カバンの中からアイパットを取り出すと、見事な手さばきで集計を始めた。
えーと総計770円でんな
な なんの事ですか?
あんたが生まれてから此の方神様にあげたお賽銭の総額ですがな
そういうと頭の禿げた神はへへへと笑った。
前歯の横の犬歯が金歯なのかきらりと光った。
そ、そんなに…
本当はそんなにあげているんですかと言いたかったのだが、
神はそんなに少ないんですかと私が言いたかったと勘違いして、
アイパットの画面を拡大して読み上げた
1985年愛宕神社10円 1986年八幡神社10円…
わ、分かりました 
私は大げさに手を振って止めた
神は満足したのか にっこり笑ってアイパットの画面を閉じるとこちらを向いた
今日伺ったのは他でもないんやけど あんたさんが今年の神会の世話役になりましてん
へ!? 突然そんな事言われても…神会?世話役?そんなん聞いてませんけど
ほう断る!断らん方がええんやけどな
前に断ったもんは腸ねん転で病院へ搬送する救急車が崖から落ちて即死ですわ…へへへ
こ、断るとは言ってませんよ

結局脅されて神会の世話役を1年間引き受ける事になった。
地方へ巡業する神を泊めたり、氏子のいない神社の草刈りをしたり、結構多岐にわたる業務内容で忙しいのだが、その一年間は家族に災いが降りかかる事はなかった。
そして1年無事に勤めあげた次の日につまり新しい年の元旦に
何かささやかな願い事を一つ叶えてくれるとパンフレットには書いてあった。
40過ぎてバツ1の私は誰かよい相手に巡り会えますようにと手を合わせた。
お参りが済んで引いたおみくじは大吉で願い事 すぐ叶う 待ち人赤い衣をまといて現れるといつになく具体的に記されていた
行きかう参拝客の脇をすり抜けて神社の石段を降りはじめた時、一番下の鳥居の影から
赤い服を着た女が一人じっとこちらを見ているのがわかった。
ははあ あれが神が用意した私の相手なんだなとひと眼で理解できた。
祈るような気持ちで私は階段をゆっくり降りはじめた。
神の導くままに…。
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