灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

no9 よくあること

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N氏の会社の敷地の中にドラム缶が置いてある。
大家である建設会社の端材を処分する焼却炉だ。
でももっぱら最近はN氏が使っている。
N氏の会社で出る段ボールや紙くずを早朝の早い時間に燃やす。
ここは工場団地なので朝の時間には方々の敷地から焼却炉の煙が上がっている。
今朝も段ボールを燃やした。
ドラム缶の底が溜まった灰で一杯になっているのを横目で見ながら(通気口が塞がっている そろそろ灰を出さなければ…)
最近は燃やすたびにいつもそう思うのだが今ひとつ気が進まない。 
灰を出すには重いドラム缶をひっくり返す必要があるのだが、そんな事は意に介さずに これまではこんなに灰が溜まる前に灰を出してきた。
あの日以来 その作業が何となく躊躇われる。

昨年の暮れのあの日その子猫は、ミャーミャー泣きながらN氏に助けを求めてきた。
柔らかな琥珀色にうっすらとキジ目が入っている。
風邪をこじらせたのか両目がはれ上がり膿があふれている。
仕方なくN氏はその子猫を連れ帰り看病した。
水を呑ませ眼の周りをガーゼで拭き餌を食べさせた。
一日目は猫の大嫌いな細君を説き伏せて、一日だけの約束で家の倉庫で夜を明かした。
二日目に会社に連れていくと猫は少し元気になってミャーミャーと泣きながら腹いっぱい餌を食べてじゃれたりもした。
人懐っこい愛想のいい猫である。
話しかけるとミャーミャーないてへんじする。
性格がいいのか少々荒っぽく扱っても噛んだり引っ掻いたりすることもなくされるがままでミャーミャー返事をする。
その日は会社に泊めることにして、ピンクのふかふかのクッションを買ってきて発砲スチロールの中に敷き猫にはバスタオルを掛けて発砲の蓋を閉め一部分を開けて息が出来る様にした。
猫は疲れが出たのか横になってされるがままになっていた。
それでも話しかけると横になったままミャ~と返事をした。
N氏はこんな愛想の良い猫は初めてだと思った。

今から思えばあれが失敗だった。
猫がこたつで丸くなる→猫は寒さに弱い…
それを甘く見ていた。

翌朝 会社に早朝の早い時間に会社について蓋をはぐると…猫は一晩で見るも無残に変わり果てミイラのように体は精気をなくし伸びてしまっていた
それでも話しかけると薄眼をあけてミャ~と微かに返事をする。
体は冷たくなりかけている すぐにお湯を沸かしペットボトルに入れてタオルに包み猫を囲むように置いた。口に水を含ませると力なく咽た。

電気あんかを買いに行って戻って来るともう子猫は永遠に返事の出来ない状態になっていた。

その猫をこのドラム缶で成仏させたのだ。
あれ以来灰を出すのが躊躇われる。
あれから数え切れない程沢山の段ボールや紙くずをここで燃やしたというのに…

それでももう限界だろう 灰は上から30センチくらいまで溜まっている
N氏は意を決してドラム缶に手を掛け傾けた。
大量の灰があふれ出て横の灰置き場に小山を作った。
もう灰置き場は満杯だ。
今日はゴミの回収日である事を思い出したN氏はゴミ袋を持って来てスコップで灰をゴミ袋に入れ始めた。
一つ目の袋を満杯にして次の袋に取り掛かったその時スコップの先が灰まみれの何かに
当たり ミャ~と言う声を聞いた様な気がした。
まさか~
背筋に悪寒が走るのを堪えて震えるスコップの先でその灰まみれの何かをそっと押すとあろうことか
突然灰の中から二つの眼球がくるりと開いたのだ…。
 
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