灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

申し訳ありませんが

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避難する人で
駅はごった返していた
私は待合室で列車を待っていた
切符は持っていなかった
上りに乗るか下りに乗るか
決めかねていた
もうしわけありませんが
振り返ると
若い女が手に抱いた赤子を
俺に抱かせた
赤ん坊は私の顔を観ると泣いた
困ったことになった

申し訳ありませんが
振り返ると
老婆の手を引いた中年の男が
ぺこりと頭を垂れた
横に座った老婆は
ナムアミダブ…と呪文のように
繰り返している
困ったことになった

風が吹いて
バタバタと人が倒れた
大きな余震がきて
列車は当分来ない
弁当売りがきて
茹でたまごを買った
泣き続ける赤子と
念仏を上げる老婆
途方にくれる私に
申し訳ありませんが
駅員が声をかけた

駅員は戸惑う私の頭に
帽子を被せ
切符切りを手渡すと
何処かに走って逃げた
駅前の国道を
何台もの車が
流されてゆくのが見えた
遠くでは火事で黒煙が上がっている

申し訳ありませんが
神に向かって小さく呟いてみた