灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

弥勒はまだか



天国は本当にありますか
目の見えぬ老婆はヘルパーの若い男に尋ねる
男は笑顔で適当に相槌をうつ

地獄は本当にありますか
末期ガンの老人絞り出す様な声はドクターに届く
ドクターは聞こえないふりをする

人は生まれ変われるって本当
醜く生まれた少女は母親にそっと呟いてみる
窶れた母親は黙って俯く

神よあなたは本当にいるのですか
だとしたら何故出てこないのです
血まみれの男は最後の力を振り絞って叫ぶ
道行く人は誰も答えない
イヤホン付きの醒めた顔で家路を急ぐ
痙攣のようなクラクションだけが
立て続けに鳴らされる


遠い昔に
まだ大地をやさしい風が吹いていた頃
神はいたのかもしれない
誰もが何かを敬い怖れ
目に見えぬ何かとしっかり繋がっていた

神は死んだ
弥勒はまだか

今は殺人狂の時代
今は物欲狂の時代
今は色欲魔の時代
誰もが病んでいる
そしてその事に気付いていない

誰もが腰に見えない銃をぶら下げている
誰もが懐に血に汚れたナイフを忍ばせている

何かを侵したがっている
誰かれ構わず殺したがっている

そんな人々の作る社会
時代は狂気に蹂躙されたがっている
誰もが心に忍ばせた鬱憤が凶器となって
それを熱望する

危険な時代
それが