灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

フェリーの上で

イメージ 1

フェリーの上で

一度タイタニックのマネをしてみたかった
夜になって船首のあたりをうろついていたら
階段のあたりに人影が、暗くてよく見えないが
女性であるのは気配でわかる
「実はお願いがあるのですが、」
「・・・・はあ」
タイタニックはご存知ですか?」
「ええ、よく存じておりますよ」
「あの有名なシーンをここでやりたいのですが、出来ましたらそのご協力ねがえませんか」
「それはそれは・・ご協力したいのはやまやまなんですが・・実はそのういささか歳をとっておりまして」
「大丈夫ですよ、歳なんて・・」そういって私は女性の手を取った
「あれ~そんな無体な~」
電灯の下に出てきたのは腰の曲がったオババだった、ニコニコ笑ってすっかりその気になってる
「じつはデカプリオのフアンでしての、あの映画をここで思い出してましたんじゃ」
言い出した手前今更後には引けないから、わたしは線香くさい老婆を抱きかかえて手すりを越えた
「さあ、いいですかいきますよ!」
いったん始めてみると、老婆の体はそのポーズにおあつらえ向きだった
曲がった腰が、見事にそのポーズを演じている
「なんまんだぶなんまんだぶ」一生懸命ひろげた手には数珠が揺れている。
「おばあちゃん大丈夫ですか!」夜風が声をかき消す
「はあ~よい冥土の土産が・・フグ・・・フム・・」
言い掛けた老婆の口から入歯が・・落ちた
さらに風に吹かれて、赤い腰巻が私の股の間をすり抜けて凧のあしのようにひらめいた


「だから何度も言ってるでしょう、決して老人虐待なんかじゃありません、私たちは同意の上でタイタニックごっこをしてたんです」
「どうも、怪しい、相手が脳梗塞じゃ証明する事はできないし」
取調官は腕組みをして薄笑いを浮かべ
「被害者の回復を待つしかないな」
台帳を閉じて顔を顰めた。

この作品はプログ村ショートショートコンテストに参加しています どうか応援してください】
↓ここをクリックしてね
[https://novel.blogmura.com/ にほんブログ村 小説ブログ]