灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

最後のデート

イメージ 1
 
その日 
駅前のキオスクの前で見知らぬ女が私を待っていた
 
年の頃なら50はとうに越えているだろう
女は泣き出しそうな顔で私を見つけると駆け寄ってきた
ベージュのセーターに赤いネックレス膝までの白いスカート
 
誰だろう ひどく懐かしいその顔
 
躊躇する私に女は何のためらいもなく腕を組んで歩きだした
振り解くには女の態度はあまりにもなれなれしくて
不思議な事に私の心もそれをすんなり受け入れていた
組んだ腕から女の体温が伝わってくる
 
だれだったけ?そうつぶやくと
わからないの 女はそう言って悪戯っぽく笑った
私に体を預けて歩きながら
おなかペコペコなの何か食べない
良いけど誰だったかな
そのうち思い出すわよ
彼女が肉が良いと言うので焼き肉屋に入った
私ねあなたとこうやって食事をするのが夢だったのよ
 うれしいわぁ~
向き合って座ると彼女は嬉しそうにはしゃいだ
なんとなくそのしゃべり方や表情が誰かに似ているような気がした
ウエーターが皿に盛った肉を運んできた
いい肉ね~焼くのがもったいないわ
そう言って女はそのひときれを口に入れた
うんおいしぃ~あなたもどうぞ さあ召し上がれ
えっ!私は焼いた方がいいよ
あらそうそれじゃ焼いたげるわね
彼女のはしゃぎ様は尋常でなくついつい私もそれに引き込まれて
三杯目のジョッキを空けるころには楽しい気分が伝染して もうどうでもよくなった
彼女が誰であれ 私に対して少しの敵意もない事はその全身から発するオーラで分かる 
彼女が私といる事でこんなに喜んでいるのなら
それならそれでいいじゃないか
 
 
居酒屋 スナック 公園と
私たちは意気投合して夜の町を遊び歩いた
最後は公園のベンチで私に膝枕されながら しばらくそうしていたいと言い
又駅に戻ってきた時にはもう最終の電車の時間だった
では私はここで 急に改まってそういうと腕を放し
彼女は私から離れて向き合った
今夜はとても楽しゅうございました
いい思い出になりました
彼女の大きな瞳に見る見る涙が溢れて来て
それをぬぐおうともせず
私にもう一度抱きついた
う~んう~んと小さな声でしばらくすすり泣いた後ではなれ
本当に今日までいろいろお世話になりました
この御恩は絶対忘れません ご主人様…
ペコリと頭を下げると顔を上げ私の顔をじっとみつめ
やがて意を決したかのようにくるりと踵を返して夜の帳に消えて行った
何度も何度も振り返りながら…

 
なに?ご主人様だと…新しいたかりの手口かな…くそう
私は酒の酔いも手伝って狐につままれたかのように
ぼんやりした状態でしばらくそこに立っていたが
やがて終電に乗る人の列に加わり
ぼくの可愛いミヨちゃんは~♪
等と歌いながら家に帰りついた
 
 
いつもは出迎えるはずの犬も家人も皆寝静まっていて
わたしもそのままソフアの上で寝てしまった

 
 
 
 
 
次の朝妻の大声でたたき起こされた
あなたおきてたいへんよ
ハナが~ハナが…