灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

no7 面倒くさがりな神


君はトイレに入る時に考えた事があるかね
どの便器で用を足すか
それによってその後に人生が決まるといったら到底信じないだろう
たとえばこの一番端のパイプで囲まれた便器
本来なら体の不自由な人のために設けられたものだが、ここを今回は当たりにしたよ
今日ここで用を足した者は人生が劇的に良い方へ変化するのさ ハハハ
恋人を射止め、会社では昇進し、買った宝くじは間違いなく当たる
そんな馬鹿な
君が信じようと信じまいと勝手だが私も一応神のはしくれでね
この地域の担当なんだ
昔は丹念に勉強して調査して運命を調整していたんだ
でも調べれば調べるほど、深入りすれば深入りする程何にも決断できなくなるんだ
そりゃそうだよ だってほら誰にも個人の事情て奴があるわけだからね
それで考えに考えた挙句トイレの便器を振り分けの装置にしたってわけさ
そうすれば何も考えなくてすむしね
ちなみにこのトイレの一番最悪のカスはこの右から三番めのこの便器さ
今日ここで用を足した奴はそれを境に悲惨な運命を辿ることになる
メモなんかしても駄目だよ 
トイレの場所も便器も気まぐれに変更するんだしね
それに君はさっきほらこの一番最悪なこの便器で用を足したじゃないか
そ そんな…
信じなければ信じなくていいんだよ
いつか辿り着いた奈落の底で私の言葉を思い出すだろう

中谷さんこんなところにいたんですか
さあ行きますよみんな待ってますから デイケアの車に乗ってお日様園へ帰りますよ
ヘルパーに連れられてトイレを出る時神と名乗った男は赤い舌を出してベーと言った。

私はそれを見送ってから男が言った一番幸運なトイレで無理やりに度目の用を足そうと試みたけれど 悲しい事にもう尿は1滴たりとも出なかった。