灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

ギィ~
あの日奇妙な音に私は思わずあたりを見回した。
犬と散歩中の私が排泄物を片付けようと公園の植え込みの中にしゃがみこんだ時だった。
そこは大きな自然公園で奥には火葬場が隣接してあり横は入り江に隣接していた。
大きな楠の木の向こうに視点が張り付いた。
信じられない事に何もない空間が切り取られたドアように開いて
中からタラップを伝って男が降りてくるのが見えた。
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私は吠えようとする犬の口を押さえて、その光景を上手く消化出来ずに隠れたままでいた。
チラリと見えたドアの中の光景が信じがたいものだった。
沢山の機械が並んでいて、同じ制服を着た多くの人が沢山の糸を引いて右往左往していたのだ。
終わったらまたノックしろよ
ああ ごめんな
男が降りるとタラップは中に引き上げられ、もともと何もなかったかのようにドアは閉まって跡形もなく消えた。
スタッフと書かれた黄色いトレーナーを着た男はもつれる足取りで少し離れた茂みに行き、そこで用を足した。
訝しく思った私は男の人相を確かめようと、男の方へ向かって歩きはじめた。
男は私と犬を見て一瞬ドキリとして足をとめた。
やあ いい天気ですね
はあ そうですね
関ジャニの大倉に似た男は口元を歪めて笑った。
スタッフと書かれた黄色いトレーナーと紺色のスラックスに青いスニーカーを履いて腕にはG-SHOCKの黒い時計
どこにでもいる若者であの光景を見ていなければただの散歩にしか見えなかった。
私とすれ違った男は少し足を速めて元の場所に戻る気配がした。
私は全身を耳にして何事もなかったかのように犬の散歩を続けた。
横目に例の場所まで戻った男が何度もこちらに目をやりながら頭の上をノックするのが見えた。
ギィ~
先刻と同じ音がして空間が長方形に切り取られたようにドアが開きタラップがスルスルと出てきた。
男はそれを伝って中に入るとドアは閉まり在り来たりの風景に戻った。
私は犬と駆けるふりをしてその場所に戻った。
男が消えたドアがあったそこは見ても触っても何もないただの空間だった。
だた耳を澄ますと
あぶなかったやんか トイレはやっぱ中の使わないとな
ああごめん ごめん漏れそうやったんよ 
ばれたやろか? 
ボケたオヤジやけ大丈夫やろ…
ハハハ 言えてる

そんな会話が聞こえたような…
気がした。

裏で糸を引いているとはこの事だったのか!?

それからそこを通るたびに空間を手で撫でたり耳を澄ましたりしてみるのだが、どこにも何もない。
公園の奥で何かブツブツ呟きながら、怪しい動作をしているオヤジがいたら、決して怪しい者ではない
たまたま物事の裏を垣間見た哀れな中年オヤジだと大目にみてやってほしい…。