灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

物語は終わらない

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其の鶴のように痩せた男は、

火葬場の窯の扉を開けて、

棺の載ったストレッチャーの横に立ち皆に向かって一礼した。

そして鶴のように甲高い声で話し始めた。

これより故人は皆さまとお別れして遠い世界へ旅立たれます。

そこまで言うとコホンと咳ばらいを一つしてこうべは垂れたまま

居並ぶ皆の顔を見廻した。

 

皆様の中でどうしても故人と離れがたく、

この際故人と共に黄泉の世界へ旅立ちたいと

そうお思いの方がいらっしゃいましたら、

どうぞまだ間に合います。

扉は開かれています。

どなたかいらっしゃいますか?

皆苦笑いをして顔を見合わせた

何言ってんですか、

悪いジョークだわ

 

いつもいつも繰り返される

棺を炉へ入れるときの

儀式

男は思わず笑いそうになった顔を

ふんと歪めて

ストレッチャーに手を添えた

 

 

それではこれより…

その時若い女性が

おずおずと手を挙げた

どよめく一同

え!ええ!

誰より驚いたのは

声をかけた男自身だった

本気なんです

祖父のいない世界なんて

考えられません

何を馬鹿な

明美!祥子を止めて

あんたが変なこと言うから

こんな事になって

そうだ責任とれよ

責任者を出せよ

神聖な葬儀の場を台無しにしおって

あたしはあたしは本当に祖父と一緒に旅立ちたいんです

お前は意味わかっとるとか

焼かれるとぞ え!

生きたまま焼かれるとぞ

 

先ほどの私の言葉は忘れてください

それでは今からご遺体を炉のほうへ

待ってください 私は本当に…

 

その時棺桶がガタガタと動いた。