灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

陥穽(trap)

イメージ 1

ドアを開ければ
いつもそこにモモがいる
それが当たり前の事だった

雨の日も風の日も
賑やかな日も寂しい日も
変わりなくモモはいた

日によって多少の差はあっても
耳をさげ尾を振りぐるぐる回って
歓声を上げる

そのことに慣れてしまっていた

そんなある日
白い布に付いた小さな染みのように
下痢が始まった
いつもの下痢だよ
薬を飲めば治るよ
そんな言葉を裏切るかのように
下痢は続きやせ細っていった
薬も変えたし病院も変えた
それでも下痢は止まなかった

周囲の皆は励まし
モモも必死でそれに応えようとした

そんなある日
暗い穴に引きずり込まれるように
モモは消えた

残された者は何も出来ない
さんざん泣きじゃくった後
白々と夜が明けたら
いつもの町がそこにあった

けれど
そこにはもう
モモはいなかった

モモの気配の消えた町
昨日までと全く違う毎日
ドアを開けても誰もいない
白い空間がそこにあるだけ

死ねない者たちは
行けるとこまで
足を引き摺りながら
歩いてゆく

容赦なく吹く風に
涙はやがて乾くだろう
けれど
彼を忘れることはない…

イメージ 2