灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

今日からボクは 6

 持って帰った野菜は暑さに弱い物はすぐに冷蔵庫に入れる
荷台の上の野菜をその日の仕分け表に従ってそれぞれの学校ごとにパレットの上に分けてゆく
学校はそれぞれ生徒の人数が違う 多いところでは1000名を超えるし 少ないところでは200名に満たないところもある
この日持ち帰った給食の献立はカレーだ メインの玉ねぎ人参馬齢に林檎 それにサラダ用のキャベツと
平均的な学校で100キロ近くになる 
それを25校分合わせて2トン500の野菜を仕分けてゆくのだ
慣れないうちはその重さに腰を痛めてしまう 
幸いボクの場合は学生時代に部活でトレーニングしていたのが幸いしたのかそんなに重いとは思わなかった
仕分けしながら品質もチェックしてゆく たとえば腐れや傷みがある物は撥ねる 重さは電気ばかりで素早くしかも的確に量ってゆく 量り終わると学校ごとに決められた置き場に置いてゆく 箱に入れるには少なすぎるものはビニール袋に校名 産地 キロ数 をマジックで書いて仕分ける
どんなに遅くても昼までにこの作業を終えなければならない 
昼には配達するトラックが積み込みにやってくるのだ 
この仕事の厄介なところは仕分けをしながらもかかってきたクレームの電話に即座に対応して代替え品を学校の給食室に届けなければならない事にある 
一番遠い学校では往復に優に一時間はかかるのだ
その為いかにクレームを減らすかがこの仕事の要諦となる
たとえばキャベツだ この時期のキャベツは収穫前に梅雨の雨に遭っている 
外葉の内側に沢山の雨水を含んでいるのだ 
この季節の30度を超える常温だとすぐに痛み始める 
そこで持ち帰ったキャベツ等の葉物類は荷台からそのまま冷蔵庫に入れてその中で仕分ける 
冷蔵庫の中は5度位なので防寒着を着て中に入るのだ
どれもこれもかなりハードな仕事には違いないのだがホームレスを経験したボクには涙が出るほどありがたい仕事だった
営利追求一色でないところも良かった 黒さんによると給食感謝習慣には学校に招かれて生徒達手作りの
感謝状が手渡される事もあるという 
黒さんはそれを幾枚か大事に取っていてボクに見せてくれた
[おやさいを運んでくれるおじさんへ]と書かれた手作りの小冊子には子供たちの絵や感謝の作文がクレヨンで綴られていた
野菜の仕分けをするのはボクと赤吉さんと云う70過ぎの張り切りシャンのお婆さんだ
このお婆さんもたもたしてると怒鳴り散らすくらい朝飯前口八丁手八丁の古つわものでボクは怒鳴られてばかりいる
45過ぎのボクでもこの会社では若手だった
当然皆からは 兄ちゃん 兄ちゃんと呼ばれ肉体労働専門に鍛えられる
最初の頃は筋肉痛と寝不足で帰ると横になって何もできなかった
それでも人間の体とは不思議なもので一週間経ち 二週間経つうちにボクは当り前に仕事をこなせるようになっていった
仕事の流れを把握できたのでもうあまり怒鳴られる事もない
それでも一番辛いのは朝飯や昼飯が思うように食べれない事だった
朝の五時に起きてからぶっ通しに働いてようやく夕方の五時に食事にありつくような事も10日に一度くらいはある だいたい毎日朝食は食べれない 黒さんにそう言うと一般のサラリーマンとは違うよと一言で片付けられた 慣れてくると運転しながらパンを牛乳で流し込んだ