灰色のロバ

地球が宙に浮いていること 誰もがそれを忘れている それでも時折不安になる

#小説

no1

十年くらい前 あの住宅が建っているところにU氏の会社はあったのだ。 今はその会社も潰れてしまって、誰も覚えていないだろう。 あの頃U氏は一人の女性と付き合っていた。 その女性とも会社が潰れたどたばたで別れてしまった。 今は別の会社で働いているU氏…

救急車

きのう救急車着たけどどこのおうち 何時ごろ? そうやねニュースステーション終わったあとぐらいやろ それやったらもう寝とったわ いや~えらく早く寝るんやね 新人ばかりで仕事きついんや そうやね教えたりせないけんのやろ そうよ自分の仕事で精一杯ちゅう…

最後のデート

その日 駅前のキオスクの前で見知らぬ女が私を待っていた 年の頃なら50はとうに越えているだろう 女は泣き出しそうな顔で私を見つけると駆け寄ってきた ベージュのセーターに赤いネックレス膝までの白いスカート 誰だろう ひどく懐かしいその顔 躊躇する私…

I am Happy!

ぼくはbarのカウンターで見知らぬ男の話に耳を傾けていた 男は四十代中頃できちんとスーツをきて趣味のよいペーズリのネクタイを締めていたチタンのシャープな眼鏡が新進気鋭の実業家の様な雰囲気を作り出していた その身なりに反して男の話があまりにも突…

約束

もぬけの殻の四郎は小さな山の頂に立った 6年前美智子と交わした約束 「3年後のこの日に もしまだ好きだったらここで会おう」 美智子は涙をいっぱい浮かべながら細い頤を振って何度もうなずいた その様が健気で愛おしかった 二人は何度も抱き合って泣いた…

蛇子はいつも心の中にする声に悩まされていた それは例えば歩いているとき目の前に水溜りがあったとすると 「あれを避ければ良くない事が起きるぞ!」 心の中にそんな呟きが聞こえるのだ 気の弱い蛇子はズボズボと水溜りの中へ入ってしまう こういうことは度…

二人

ぼくたちの場合母が偉かったのか馬鹿だったのか でも母のせいで数奇な運命を辿ったことは間違いない ぼくらは一卵性双生児だったが、戸籍は一つしかない 法律上はつまり二人で一人なのだ 何故母がそんなことをしたのかは今となっては知る由もない とにかく…

メッセージ

私の職業は変わっている この日もようやく探し当てたボロアパートの階段を上がってゆく 1k風呂なし 共同トイレという絵にかいたようなボロアパート 今日はここの住人の一人に用があるのだ 澤田美香子 ドアの上に張り付けた紙に鉛筆でそう書いてある コンコ…

わしは風

ある日 大きなガラス瓶の中に半分くらい貯まった百円玉 それを見ながら四郎は考える 毎日百円はいとも簡単 それでも積み重ねれば結構な額になる ということは少しずつ積み重ねれば人の驚く様な事も出来るようになる筈じゃ そう考えた四郎は朝のウォーキング…

リーチ

キンコン♪ 猫を追い払って小鳥を助けた時 多美子はチャイムのような音を聞いた 何の音だろう それは遠い昔に聞き覚えのある音だった その日の夜 小屋の中で多美子はある夢を見た 教室のような所で講義を受けていた もし皆さんの積み重ねた善行が次のステージ…

パンフレット

小さな神社の石段を登ってゆくと一人のおじさんが石段に腰掛けていた ステテコに腹巻姿だったがすぐに神様だとわかった こんにちは神様! やあ照れちゃうな バレバレだったかな 神様は短く刈った胡麻塩頭を掻きながら笑った ここに出てきたのは他でもない …

追ってくる

祖父が原因不明の病に倒れた時 いく日も高熱は続いた 医者が今晩がヤマ場といった日の真夜中 徹夜続きの祖母は朦朧とした意識の中で 襖から襖へ骸骨がガタガタガタと音を立てて 走ってゆくのを見た それを境に祖父の病は快方に向かった そんな馬鹿なことがあ…

目標

ある日 神さま養成所の応募に 一人の悪魔がきた どのような動機で志願されましたか はあ、ふとやりなおしてみようと思ったもので 採用担当の会議は紛糾した 悪魔が改心するわけがない いや罪を憎んで人を憎まず 未来永劫の宿敵ですぞ 神とは寛容なり 結局採…

2050

列島生まれの列島育ち そういう連中の持つガチガチの考えを列島観という ここ内蒙古にあるコロニー134別名敷島でも 年老いた連中が 列島の事をよく話して聞かせた 曰く 四季それぞれに花が咲き 海の幸 山の幸に恵まれた場所 山紫水明の理想郷 とうとう我…

ジョン・カーター

ジョン・カーター・タルスタルカス・デジャーソリス スビアそしてタグィア・・・ ボクは少年の頃 火星で暮らしていた 赤色人・緑色人・白猿・黄色人・ホーリーンサーン 首だけ入れ替わる奇妙な寄生獣 いつも紫のドレスを纏った絶世に美女デジャーソリスより 何巻目…

特別枠

宝くじを買ったとき見知らぬ男が話しかけてきた 「たまには当たりたくないですか」 「そりゃ~当たりたいさ でもねそう簡単に当たらないんだなこれが~」 男はウインクしてついてくるように言った 男に連れられて入った珈琲ショップの中で男は声を潜めて言っ…

傾いている

地球の地軸は23.4度傾いている そのおかげで秋の後には冬がやってくる もう街には木枯らしが吹き始めている ボクの背骨も幾らか右に傾いている ボクが不安定なのは 地球に四季があるようなものだ 地軸が傾いてなければ 面白みのない惑星だっただろう それで…

今日からボクは no7

夏休みになった 黒さんはボクに「あとは頼むよ!」と言い残して支店へ移っていった メインの給食の配達がなくなって 仕事の内容は激変した 第一朝早く起きなくてよくなった八時までに出勤すればいいのだ 仕事といえば病院と飲食店の配達くらい 面喰ってるボ…

今日からボクは 6

持って帰った野菜は暑さに弱い物はすぐに冷蔵庫に入れる 荷台の上の野菜をその日の仕分け表に従ってそれぞれの学校ごとにパレットの上に分けてゆく 学校はそれぞれ生徒の人数が違う 多いところでは1000名を超えるし 少ないところでは200名に満たない…

今日からボクは 5

考えてみればこの会社も変わっている 従業員は5人なのか7人なのか定かでない。というのはそのほとんどが兼業しているのだ 年老いた女社長にしてからが本業のほかに夜は手料理を出す 居酒屋を経営してる クータと呼ばれる賑やかなおじさんは他人の家に出来…

今日からボクは 4

ぼくの仕事というのは一口でいえば野菜の仕分けと配達という事になる 毎朝ひと月1万円で借りたおんぼろアパートを5時半におんぼろ自転車に乗って出発する 会社までは20分5キロほどの距離だ 会社に着くと隣町の青果市場に出発する前にやっておかなければ…

今日からボクは 3

世の中には不思議なことが沢山ある たとえばボクの上司である黒さんの事だ ひと月間接してみて彼はボクがこれまであった誰よりもインテリジェンスに富んでいると思うようになった 黒さんはどちらかといえば無口なほうである 話す必要がない時は黙っている け…

今日からボクは 2

失職してホームレスとなって施設のお世話になってボクの中で変わったものがある それは生き方根本に関する変化だった それまでのボクは働く事に毎日毎日働ける事に感謝などしてなかった。 いかに人より楽をして金を沢山もらうかその事に尽きた だが突然解雇…

今日からボクは(しらふでシュラフの続編)

今日 ボクの新しい仕事が始まった ボクはくたびれた中年であるけれども生きてゆかねばならない いつまでも行政に甘えてはいられないのだ どんな仕事でもよかったのだ けれどもこの不況ではどんな仕事もなかったのだ 年が明けてからの職探しの日々 焦りと苛立…

しらふでシュラフ その2

次の日夜が明けるとぼくは自分の家に行ってみた 正確にはもうボクの家ではないのだけれど いやもともとうんざりするようなローンを抱えていたので正確にはボクの家ではなかったのだけれど… 垣根越しに見る庭にはボクの植えたレモンとゆずが黄色い実を一つづ…

しらふでシュラフ

H緑地公園へ行ってみた 河口に面した河原に真新しいブルーシートハウスがポツポツと立っている その一つを眺めているとひげ面の男が声を掛けてきた 「お兄さん こういったのをお探しですか?」 「え!?……まあ」 「どうですちょっと見てみませんか?早い者勝…

2人のサンタ

クリスマスイブの日サンタクロース達は忙しそうに そりに荷物を積み込んでいました そこにはダボダボのサンタ服を着て積み込みを手伝う男の姿がありました 「おや 新入りかね?」 他のサンタ達が声を掛けていきます 「ええ…一日助手を務めます」 白いひげを…

スペアタイヤード

同僚の佐伯の様子がなんか変! 受け答えもそつがないし仕事も捗ってるようすだけど ヤッパリなんか変!他の人の目は誤魔化せても私の眼は誤魔化せない たとえば、トイレに入ったとき必ず口ずさむミスチルのあの歌を歌わないし 手なんか洗ったことないのに洗…

赤いピアノ

みぃたんは今年5歳になる女の子です お父さんは車を作る会社で働いています 今年の夏のたなばたの時 みぃたんは短冊に書いたのです クリスマスには赤いピアノが ほしい そうねえ頑張って嫌いなピーマンを食べれるようになったら サンタさん願いをかなえてく…

センコウ

ひしめき合っていた 「どうやら選ばれるのは一人だけらしいぜ」 どこから聞いてきたのか ブッさんが笑いながらそういった その笑いには自虐の意味が込められているのだろうか そう考えてるうちに 何者かに頭を叩かれた 「間違っても おまえは選ばれないよ お…